ラノベ批評『豚のレバーは加熱しろ』

異世界に転生したとおもったら、ただの豚になっていた。過酷な運命を背負う少女を知恵と嗅覚で救い出す。第26回電撃小説大賞受賞作品。逆井卓馬先生が贈る異世界ブコメ

[逆井 卓馬, 遠坂 あさぎ]の豚のレバーは加熱しろ (電撃文庫)

 イェスマという誰とでも心を通わすことができる種族。この種族のひとりの少女と豚に転生した主人公が出会うところから物語は始まります。この作品の魅力はなんといってもこの天使のようなヒロイン、ジェス。遠坂あさぎ先生のイラストがなんとも映えます。心を読めるキャラクターは得てして人間の醜い部分にふれて荒んでいることが多いですがジェスは純粋で穢れのない存在です。現に心を読めてしまうので主人公の豚に好きなだけ下着を見てくださいと真っすぐに言えるくらいに。そしてこのヒロインと豚になった主人公の軽妙なやりとりが非常に魅力的です。本来根暗なオタクである主人公が豚になっているのでどこか味のある会話になっているのも面白いです。

美少女に世話をされる豚生活。これもありかと思うのもつかの間、ジェスには運命が待ち受けています。イェスマはこの世界では小間使いとして王都から派遣され、時に命を狙われ、時に奴隷のように扱われる存在だったのです。そして一定の年になると小間使いをしていた家を離れ、王都に向かう旅を課せられています。道中盗賊や獣に襲われる誰一人として帰ってこない旅。世話になった主人公はジェスを王都へ無事に送り届けようと知恵を振り絞ります。道中で会う狩人のノット、同じイェスマのセレスやブレースとの出会い。主人公とジェスはさまざな人々の人生に触れ、この世界の成り立ちやイェスマの謎に迫っていきます。他のイェスマを取り巻く環境をもっと描くことでジェスとの対比があったらと思ったり、ノットが優秀すぎる点など若干ご都合主義すぎる部分はあり、途中の展開に物足りなさはあります。しかし終盤の伏線回収がなされていくと見事な読了感がありました。イェスマとこの世界の歴史、そして主人公がなぜ豚として転生したのかという謎。また純粋で穢れのないジェスという少女の隠していた気持ちを吐露した場面は浮世離れしていた少女にリアリティを与えて、このヒロインを魅力的にさせています。あとついでに個人的にあとがきを思わせる主人公の現実世界での話の流れは秀逸で個人的にとても好きです。続編も期待したいです!